あれから、追い討ちをかけるように忙しい日々が続き、年末には、一人で店を営業したあと、残業を5時間ほどしなければいけなかったり、自転車の鍵が壊れ、家までの道のりを歩いて(2時間ほど)自転車を担ぎながら帰ることもあった。
年始には、虫歯なのか歯がうずき、2日寝ることができなかったりと、さんざんな日々を過ごした。
最初に行った病院の薬を飲みはしてみたものの、症状は一向に良くならなかったため、今度は内科メインのような病院ではなく、神経内科などもやっている精神科医に行くことにした。
精神科に対する偏見などはまだあったものの、精神科の方が良い、というのをネットに書いてあるのを見たので、ようやく行く決心をした。しかし、最初行った日は、昼からは予約した人のみの診療だったため、そのまま帰ることになった。
日を改めて、朝からがんばって起き、(うつ病の人間が決められた時間に起きるのは非常につらい)診療を受けに行った。 そこは、兄やんがイメージいたような暗〜い感じではなく、普通の病院の待合室と大して変わらなかった。
そして、問診の前に相談員の方との面談があった。そこで、心療内科に行ったことやらいろいろと聞かれ、相談員の方はそれをメモしていた。それが終わってしばらくすると、兄やんの名前が呼ばれた。
緊張するだけの気持ちの余裕もなく、その医者の問診が始まった。
「一人で来たん?」
と驚きの表情でその医者は言った。
兄やんは、
(そんな簡単に相談できへん病気からひとりで来たんやんけ!!)
と思いながら、力なく
「はい」
とだけ答えた。
そして先ほど、相談員の方がとったメモなどを見ながら問診は進み、その診断結果は
「うつ病ではなくて、睡眠スケジュール障害だよ」
と言われた。
(はぁ?睡眠スケジュール障害て何やねん)
て思っていると、その医者が説明してくれた。
「君の仕事は、深夜まで働き、朝方帰ってくるような仕事のため、その睡眠リズムが君には合わないため、不眠症になっている。また、その店のオーナーが嫌だから、それでストレスがたまっているだけ。」
そういう説明だったが、もちろん納得はできなかった。
また、その医者は、
「今が一番しんどい時期だから、それを乗り越えたら大丈夫。まあ、その仕事をずっとやって行こう、という気がないんなら辞めたらいいけど、どこでも最初はそうやってしんどいもんだよ」
と、まさかの根性論をつきつけてきた。
基本的に根性論だった兄やんが、こんな風になってしまったから心療内科にも行き、それでも良くならないからこうやって精神科まで来ているのに、こんな根性論で片付けられたのには、さすがに腹が立った。
今考えてもこの精神科医については、ぶっ飛ばしてやりたいくらい腸が煮えくり返る思いだが、日本のうつ病などの心の病に対する取り組みの無さが顕著に出た結果とも言える。
そして、一応薬はもらい、その薬を飲んでいたが、案の定良くなる兆しは見られなかった。
その間、友人などに会う度に
「やつれたなー」
などと言われ、またある人からは、
「そんなになってまでそこで働くのは、無意味だよ。事情を説明して今すぐに辞めるべき」
という言葉を頂いたが、相手であるオーナーが、あの精神科の医者のよりも根性論の強い人間だったのと、その当時、うつ病によって心身共に弱りきっていたので、そう簡単に言い出すことはできなかった。
そして、その精神科でもらった薬がなくなりかけたので、今度は、同じ病院の別の医者のいる日に行ってみることにした。しかし、カルテはそのまま使われているため、その時もうつ病の扱いはされないで、「不眠症」扱いだった。
それでも、前の医者よりも理解のある先生で、方針を変えてくれたのが唯一の救いだった。その日は、また別の薬をもらって帰ることになった。
当時兄やんには、正月休みがなかった変わりに、その3週間後くらいに、3,4日休みをもらった。3人中2人には「うつ病ではない」と診断されていたため、(もしかしたらうつ病ではないのかも)と思う部分もあり、(いい気分転換にでもなれば)と思い、心身にムチを打ち、弟と九州に旅行に行った。
本来なら、旅行は一人で行く兄やんなのだが、当時はそんな余裕がなかったので、弟についてきてもらった。
そして、向こうに着いて、久々に酒を飲んだのだが、そんなに飲んでいないのにも関わらず、体がアルコールを受け付けなくなってしまった。翌日、もう一度酒に挑戦しようと、缶チューハイを買い、電車で移動中に飲んでいたのだが、この時に決定的なことが起こってしまった。
まだ1本目で酔ってもいないのに、手から缶がすり抜けてしまい、車内でぶちまけてしまった。その前後にも、階段で足を踏み外したりと、感覚がおかしい状態がずっと続いてしまった。
弟の手前、兄やんもそんな自分の状態に気づかれないように配慮してたのだが、缶チューハイをぶちまけた時は、かなり惨めな思いをした。
それから、九州のいとこの家に立ち寄り、飯を食いに連れて行ってもらったのだが、好物の魚や酒を勧められたのだが、相変わらず食欲もなく、酒もほとんど飲めなかったので、せっかくよくしてくれているいとこと伯父と伯母に、何だか申し訳ない気分になった。
そして、気分転換のハズの旅も、気分転換どころかますます落ち込んだまま終わり、また仕事をする生活に戻っていった。